森見 登美彦
新潮社 (2006/05)
売り上げランキング: 1116
評価が難しい。森見登美彦らしさは出ているんだが、やはりデビュー作、しかも院生時代に書いた作品だけあって、テーマが散逸している印象もある。真面目なお堅い文体でアホらしい描写をする、という森見節の片鱗は見られるのだが、「夜は短し歩けよ乙女」のような作品全体としてのまとまり、滑稽さを上手く生かした爽快さが弱い。ただのクソ大学生のどうしようもない日常なのに、本人たちはそれを自覚するのを拒否して特別なもののように思い込むという、大学生特有の性質を表現するのはさすがに現役院生だけあって上手いのだが、一歩間違えるとそれが創作の小説ではなくて単に自らの独白になってしまうような危うさがある。ただ、この土台があったからこその今の森見文学なのかな、とも思う。読後感としては、作品全体として訴えかけてくるもののイメージがふわふわしていて、イマイチ掴みづらいという印象があるのだが、大学生のモラトリアム感覚、壮大なバカをこよなく愛する感覚自体がふわふわしているものだから、それでいいような気もする。
阿部 和重
講談社 (2005/02/01)
売り上げランキング: 66940
巷でロリコン文学と呼ばれているわけだが、多分そこに焦点を当てすぎると良く分からなくなるような気がする。この物語は「過ちを犯した男の再生の物語」なのか、或いは「ロリコンは死んでも治らないという絶望の物語」なのか、図りかねるものがある。自分はひたすら前者であることを願って読んでいたのだが、この作品の締めくくり方ではとてもじゃないが安心して前者だと言い切ることはできなかった。
作品を通じて常に感じる違和感は、この主人公が本当に自分の過ちに気付けたのか、という部分。当然、冒頭部分の待ち伏せからは微塵もそんなことは感じられないし、Iにホテルで他人事のように自らの罪を独白する場面でも違和感は拭えない。おそらく違和感の根底にあるのは、ひたすら主人公のモノローグとして語られるこの作品が、一見するとまともな人間の語り口で紡がれる単なる記録のように思えるからだ。おそらく客観性が恐ろしいくらいに薄れている。客観性を持って自分の行為を自戒しているという記述でさえ、違和感を感じざるを得ない。本当の意味で自分のしたことの大きさを理解したのだ、と読者が安心できる流れになっていない。自身の行為の取り返しのつかなさがIからの言葉という形で書かれているというのが、さらにその違和感を増幅させる。
その違和感を引きづったまま、作品は進み、地元に戻った主人公の自戒の日々が後半で始まる。そこでムリに子供を見ないように、接しないように努力する主人公。そして、二人の少女、亜美と麻弥と始まる自らの再生を賭けたような演劇の日々。主人公は全財産を叩いて言葉通り自らを賭して、最高の本番を迎えさせようと努力する。ただ、その自戒する姿、演劇に尽力する姿にも違和感を感じるのだ。「今まで少女たちから奪った時間は取り戻せない」のに、演劇に打ち込んで亜美・麻弥に尽力することによって、「自分の罪を浄化することが出来る」と勘違いしているのではないか。他人(I)の言葉ではなく、自ら自分の罪を認識するのはいつなのか。
結局のところ、物語の最後までこの主人公に感じる自己中心的性質は払拭できない。そして、迎えるラスト。おそらく、誰もが自らが描くハッピーエンドを作品の最後に付け加えたいと思うはずだ。つまりは「過ちを犯した男の再生の物語」としてこの作品を消化したいと思うはずなのだ。しかし、それが出来ない不気味さ、どうしても拭えない違和感がこの作品にはある。他人の痛みを素で理解できない人間は恐ろしい。
島本 理生
角川書店 (2007/11)
売り上げランキング: 49445
華子と冬冶、双子の姉弟の大学時代を描く、著者曰くモラトリアムとその終わりの物語。最初は双子の物語なのだが、最終的な帰結として冬冶視点を貫く。手のかかる姉に振り回され頼られ、言うなれば自分を殺して過ごすことに慣れていた冬冶は物語を通して何度も自分とは何かを自問する。
この作品を冬冶に感情移入して読んで感じたのは、優しさや気遣いが自己防衛手段として用いられてしまう怖さ。相手が傷つかないようにと思って他人に与える優しさや気遣いが、実は自分を守るための保険に摩り替わってしまう。そんな風にして出てきた優しさや気遣いは、本来の性質を失って相手を傷つけるものにさえなってしまう。その優しさを本当の意味で優しさにし得るのは、同情ではなく決意だ。曖昧な優しさは相手に無用な負い目を感じさせる。
冬冶の選択した優しさは決意に裏付けされたものであって、それは一般的な倫理観や正義としてどうかという性質のものではなくて、冬冶の信念に基づいていたものだ。こういった状況になった時の選択は個人個人で当然異なるだろうが、ただ、個人として決意に確かに裏付けられた選択をする、ということが、自分にとっても相手にとっても偽りのない選択になる。
この人は凄く文章が上手いのだが、時々必要以上に書くべきことを抑圧して書くという感じがする。変に意識しすぎなところと、のびのびと書いている部分があって、それもまた味と言えば味なのだが、文章そのものとして印象に残る文章というよりは、作品全体の印象として頭に残る文章という趣。全体としては、途中から連載小説になったというだけあって、物語の最初の趣と最後の趣が若干異なるので、ムリヤリ一つの作品としてまとめたという感じは否めない。ただ、読ませる文章だし、一つ一つの話のまとまりもいい。オムニバスのような感じか。本当の意味での長編を読んでみたい気もする。
Comments
引越し
引越し
ヒグラシ。
うぅむ。
ランキング依存とメディアリテラシー。